切ない想いにさせられる映画である。「桜花抄」、「コスモナウト」、「秒速5センチメートル」の3本の連作アニメーションからなり、それぞれスタイルを変えている。テーマは切ない恋ということになろうか。なにより素晴らしいのは、その映像美である。桜の花びらの散る風景、雪の降りしきる情景、空に浮かぶ雲、暮れ行く夕空の色のグラデュエーション、どれをとっても美しい。光の織り成すコントラストが本当に美しい。アニメの映像の美しさの進歩は、最近著しいものがあるが、この作品は、最先端にあるのではないかと思う。主人公遠野貴樹が想いを寄せる篠原明里に会いに行く電車の中の場面を見ていて、一体アニメはどこまで実写に近づくのだろうと思った。その素晴らしい技に関心する一方で、それならカメラでさらっと撮った方がいいじゃないかという疑問が湧き起こる。リアリズムなら勿論映画に負ける。しかし、画面の細部まで自由に構成できることが、アニメの強みで、それに実写に近いリアリズムを付加できれば、鬼に金棒というところか。けれども、それがかえってあだになって、映像美を追い求めるあまり、なにを描きたいのかという肝心のテーマが弱くなるということがある。この作品もそれが言えると思う。貴樹は、青年になっても、明里への想いに囚われ、どうすることもできないまま映画は終わってしまう。貴樹は、映像美を追い求める監督におっぽり出されてしまったという感じである。結末をつけないとダメなのではないかと思う。
最後の「秒速5センチメートル」では、山崎まさよしの歌「One more time, One more chance」のリズムにあわせて、画面カットがフラッシュバックされる。その様は、本当に音楽とカットのリズムが合っていて、素晴らしかった。こんなのは、初めてなのじゃなかろうか?。最近テレビで見た、ロシアのシンクロナイズドスィミングの演技を思い出した。ロシアの選手の振り付けは、音楽のリズムと見事に合っていて、それを見ていると感動さえする。
「One more time, One more chance」は、切ない歌である。繰り返される「こんなところにいるはずもないの」にという歌詞が、画面カットで妙に強調されて、切なさが溢れてくる。このアニメは、やはり切なさをただ美しく描きたかったのだろうなあ。