「鹿男あをによし」  万城目 学

 万城目 学の「鹿男あをによし」を読む。感想を書く前に、この本を読むにいたった経緯について書いておきたいと思う。昔、椎名誠が創刊した「本の雑誌」のWEBに、作家の読書道というコーナーがある。作家がどんな本を読んできたのかインタビューに答えるという、なかなか興味深いコーナーなのだが、そこで、万城目 学という名前が目に入ってきた。浦澤直樹の「20世紀少年」という漫画に、万城目(まんじょうめ)という詐欺師が出てくる。変な名前を付けてるなあ、ぐらいに思っていたら、同じ名前を実際に見つけて驚いた。そして読んでみたら、これが恐ろしく素直な語り口で、この人の書く本は、きっと面白いという直感が働いた。しかし、すぐに本を買って読もうとはしなかった。現代の作家はあまり期待できないからだ。そのうち、「鹿男あをによし」がドラマ化され、放映され始めた。ドラマもあまり見ないのだが、玉木 宏が主演なので、ちょっと見てみようという気になった。「のだめカンタービレ」という面白い漫画があるのだが、これがドラマ化された時、ダメだろうなと思いつつ、観てみたら、これが案に相違して面白かった。天才若手指揮者の千秋を、玉木 宏が好演していたのだ。自信家でキザで厭味なところがあるのだが、音楽への本物の情熱ゆえに憎めないという役を、オチャラケた雰囲気の中で、違和感を感じさせることがなかった。このイケメン俳優は、なかなかやるなあと思った。さて、ドラマ「鹿男あをによし」なのだが、これが近年になく素晴らしく面白かった。録画したドラマを何度か見るということは、ありえないのだが、何度か見た。ということで、この本を読むことになる。まず、出だしが面白い。気が利いている。どんな物語が始まるのだろうという気になる。この物語は、筋はたいして意味がない。面白いファンタジーになっているのだが、それよりも、全編に醸し出されるどこかのどかな雰囲気がいい。読んでいて、漱石の坊ちゃんの世界だなあと思った。作者もヒロインにマドンナという今ならありえないあだ名を付けるくらいなのだから、意識しているのだろう、見事にそれに成功している。主人公のセンセイが、一生懸命日本を地震から守ろうとするのだが、どこかフワーッとした空気が流れている。井上靖の「北の海」の洪作を思い出した。自分では真剣なのだが、まわりから“ごくらくとんぼ”と思われる、洪作、ちょっと似ている。これが好きで何度も読んだものだ。自分のツボなのかもしれない。物語は、最後ハッピーエンドで終わる。鹿とさえ心が通い合うのだから。それもいい。

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コメント

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