「北の海」 井上靖著  ~何度読んでも面白い~

 井上靖の「北の海」 (新潮文庫)を読んだ。
評価:★★★★

 この本は、「しろばんば」「夏草冬濤」に続く井上靖の自伝的小説である。
この3作品は、昔何度読んだかわからない。
自分のツボの作品だ。
数日前、本屋で偶々「夏草冬濤」を見かけ、手に取って読んでみた。
面白かった記憶が蘇ってくる。
家に帰って、本棚から「夏草冬濤」「北の海」を取り出して、続けて読んだ。
今回は、「北の海」について書こうと思う。

 まあ、一言でいったら、青春小説ということになってしまうんだが、癒される面白さがある。
作者の洪作が沼津中学を卒業したが浪人して、暇つぶしに卒業した中学の柔道部に通いだし、そこで出会った四高生に誘われて、金沢の四高の柔道部の練習に加わって、最後は台北の両親の元に行く、というあらすじである。
まあ、この小説の面白さは、洪作の能天気な極楽とんぼぶりである。
男なら誰でも、こんな能天気に生きたいものだと思う。
実際そうなったら困るので、そうはならないのだが、願望としてはある。

 あと、生活の中で、伊豆の湯ヶ島や沼津、金沢の街の様子が当時の雰囲気が伝わってくるのが、魅力である。
戦前の日本の暮らしぶりというのは、読んでいて面白くて、魅かれてしまう。
湯ヶ島のじいさん、ばあさん達が素朴すぎて、馬鹿にしてしまいそうだが、昔の日本人の善良さが、うらやましい。
ふと思ったのだが、明治以降の小説は、高等教育を受けたいわばエリート達の目線の話ばかりだな。
当時は、高等教育を受けれた人はほんのわずかなのだが。

まあ、それはおいといて、この作品は、青春時代の無頓着さと戦前の日本への懐かしさが溢れた作品で、そこが好きなのである。
文学的に言ったら、大した作品ではない。
好きなので、褒めようと思うのだが、冷静に見て、文学的な価値はないだろう。
井上靖の本は、歴史物を除いて、いくつか読んだが、文学的に優れているとは思わない。
生前、ノーベル文学賞候補にあがっていたようだが、見当外れだな。
村上春樹と同様に。

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