スタジオジブリ・レイアウト展を見にサントリーミュージアム[天保山]に行った(09/09/12)。「風の谷のナウシカ」から「崖の上のポニョ」のジブリアニメとジブリ以前の高畑・宮崎両監督がかかわったアニメのレイアウト約1300点が見られた。レイアウトとは、絵コンテの後、CG、作画、背景の分業が並列に作業できるように作られる、いろいろな指示も記載された画面ということだそうだが、見る方から言えば、完成度の高い下書き、色鉛筆で淡く彩色されたデッサンと言えよう。
まず、「風の谷のナウシカ」のレイアウト、絵といえども絵に動きがあり、さすがアニメの下絵といえる。また、人物の感情表現も素晴らしく、いいなあと思って見ていた。「ラピュタ」、「トトロ」と見て、アニメで見たシーンが描かれているのだから、懐かしく興味深く見ていたのだが、その内、案外、絵としてつまらないのに気づいた。うまく描けているのだが、絵に命がない。定規で引いたような線もある。「宅急便」、「豚」、「狸」と見て、こんなものかと思い始めたところで、「もののけ姫」のレイアウトになった。ここで一変する。絵に動きと命が復活する。もののけの森でも、実に雰囲気がある。シシ神がアシタカを癒す池の中の小島の絵が実にいい。太い幹の木とその横に佇む小さな木、そして周囲を崖の上の木々が取り囲んでいる。好きな絵だなあ。エボシとサンが戦っていて、その周りを槍を持った男たちが取り囲んでいるシーンがあるが、男たちが適度に省略的に描かれながら描き分けられており、絵としての味が出ている。シシ神の顔のアップの絵がある。普通ならマンガで笑いそうな顔であるが、真面目に見させる絵になっているのに驚いた。これは技術というより、描き手の真摯な思いがそうさせるとしか言いようがない。デイダラボッチの絵が何点かあった。映画では、シシ神がデイダラボッチに巨大化した時、リアリティがなくなり、幻滅したものだった。しかし、このレイアウトでは、美しく立っている。本当に美しく見えるのだ。なるほど、このレイアウトなら、デイダラボッチで失敗するとは思わないだろう。そして、アシタカが顔を血まみれにしながら、シシ神の首を上に掲げている絵があった。これには、鬼気迫るものがある。本展のベストであろう。アニメでは、シシ神に首を受け取ってくれという願いと首を取り返したという達成感が混じった感情を、観る方としては感じたが、この絵では、そういう生やさしいものではなく、何か描き手の怒りともいうべき感情が込められているように感じた。そして、隣に、すべてが終わった後の草がなびく丘で、アシタカとサンとヤックルと山犬が、憑きものが落ちたように佇んでいる。絵から穏やかな平和な空気が漂ってくる。素晴らしい。この時になって、思った。「もののけ姫」のレイアウトは、宮崎駿自身が描いたのだなと。「もののけ姫」は、宮崎駿の最後の作品という触れ込みであった。それで、宮崎駿自身が精魂を込めて、これらのレイアウトを描いたのではないか。これらのレイアウトは、とても高いレベルにあり、高いテンションのもとに描かれていると思う。激情と穏やかな物が両方とも高いレベルで描かれていることにも、感銘する。
会場では、トンネルを潜り抜けると、そこに「千と千尋の神隠し」の湯屋が見えるという面白い趣向も凝らされていた。「千尋」では、展示方法が一変されて、壁一面に多量のレイアウトを並べられている。さすがに一枚一枚見る気になれなくて、勿体ない気もするが、これはこれで、いいのかなと思う。アニメでは凄い量のレイアウトが描かれており、それを実感してもらうという意図もあるのかもしれない。「千尋」の絵は、「もののけ姫」に次ぐレベルにあると思う。誰が描いたのだろう。本展では、どのレイアウトを誰が描いたのか書かれていない。唯一、「千尋」の湯屋の外観と内装の一部を宮崎駿が描いたと記載されていた。ということは、「千尋」のなかなかいい絵を、宮崎駿以外の人が描いたということになる。皆のレベルが上がったということなのかなあ。
本展は、アニメ好きには勿論面白いだろうが、絵好きにとっても、デッサンを見るという感覚で楽しめるのではないかと思う。特に、「もののけ姫」のレイアウトは、展覧会に出すに値するレベルにあると思う。たかがアニメの大量生産のレイアウトと言うなかれ。芸術の定義は、人を感動させるもの、人の心を動かすものと思うので、十分芸術作品と言えると思う。宮崎駿は、やはり日本を代表する芸術家の一人だなあと改めて実感した。
もののけの森 シシ神がアシタカを癒す池の中の小島
アシタカが首をかがげる 平和の訪れ
コメント
こんにちは!
いいですね~行けて♪
ボクもジブリ大好きなので
行きたかったなぁ・・・。
今、自分の部屋を「小ジブリ美術館」
にしようとしています(笑)
よかったら、ブログに見に来てくださいね♪