NHKの藤井2冠の「新たな盤上の物語」が面白かった。

 昨日、NHKで藤井2冠の特集、「新たな盤上の物語」が面白かった。
まあ、大体ネットで知っていた情報が多かったんだが。

番組もネットを見て、作っている所が多々あった。
渡辺明を「魔王」と呼んでみたり、「お前は既に死んでいる」というアニメのせりふをぶち込んできたり。
既にネットで受け具合がわかるし、大勢の人間が作り出すアイデアを盗用するんだから、番組作りも楽になったもんだ。

一番興味深かったのは、読みの進め方だね。

以前「藤井聡太七段が新人王に。 それよりも詰将棋の解き方が凄い。」と記事を書いたんだけど、
白鳥士郎氏による叡王戦本戦出場棋士24人へのインタビュー記事のこの内容に驚愕した。

――棋士はどなたも『脳内将棋盤』を持っておられます。でも藤井先生は、あまり盤面を思い浮かべておられる感じではないと、以前、記事で拝見したのですが。
藤井「はい」
――では、対局中はどんな感じで考えらおられるのですか? 棋譜で思考している?
藤井「ん……それは、自分でもよくわからないというか。んー…………」
――盤は思い浮かべない?
藤井「まあ、盤は(対局中は)目の前にあるわけですので」
――詰将棋を解くときなどはどうです?
藤井「詰将棋は読みだけなので、盤面を思い浮かべるという感じでは……」

一体、どうやって読んでいるのか?
それについて語っていた。

「最初、符号で進んでいって、たまに盤が出て来て、そこで改めて形勢判断をしたり、読み進めている時は符号で考えていることが多いですかね」「そういった手が見えた時は、その手の当たりがちょっと違うと感じることもあります。」

符号で考えているのか。 以前記事を書いた後、どうやってるんだろうと考えてた時、符号なのかなあとは思ったんだけど。
符号で考えてると、駒が当たっている周囲の駒だけが頭の中にあって、読みを進めることになるから、例えば数10手進んだ後の遠見の角みたいな手が、読み抜けになりやすいんじゃないかと思うんだけど、そうならない所が凄いな。
「たまに盤が出て来て」という、言い方が凄い。
盤を思い浮かべるじゃなくて、盤が勝手に出てくるんだからね。
符号で読みを進めても、その後の盤を正確に思い浮かべることが出来る。 相当難易度が高いと思うんだけど。
普通の棋士は、それが出来ないから、盤を思い浮かべて、そのイメージの盤の上で駒を動かしているんだと思う。
そうすれば、間違いを防ぎやすいから。
羽生9段でさえ、盤を4分割して、イメージしていると答えていた。 それで読みのスピードアップと正確性を両立させているんだろうけど、藤井2冠は、その上を行っているな。
符号で読みを進めても、その後の盤を正確に思い浮かべることが出来るのは、詰め将棋で鍛えた脳の賜物だろうな。
詰め将棋は100手以上なんてのもあるから、それを脳内で考えていると、符号で考えるようになって、符号で考えても配置を間違わないという脳になったのかな。 詰め将棋は、駒の数が少ないからそれが出来やすいというのがあって、それを盤将棋でも応用しているのかな。
小さい頃から詰め将棋を一生懸命考えていたら、脳内の読み方が、自然とそうなったんだろう。
神経回路がそう繋がったとしか考えられない。
ということは、既に神経回路が形成されてしまっている棋士達には藤井2冠に読みで勝つのは無理かもね。

あともう一つ、
「人間というのは、やっぱり読むときに最初に感覚でほとんど切り捨てちゃうんですけど、今まで感覚だけで切り捨てていた手でも実はいい手だったということもあるので」
「感覚を変えていく必要があるかなとは思っています」

これが、また面白い。
現在の藤井2冠は、感覚で切り捨てた手を読みで拾っているけど、それを感覚で拾いたいと言ってるんだな。
まあ、人間としてはそうなるわな。

藤井2冠の小さい頃の将棋教室の先生が、広瀬8段との敗戦について、
「あの晩は、聡太は眠れなかったと思いますよ。 凄い内面に胸の中に熱いマグマを持っていて、ここ一番を落としたからね、マグマが放っておいてくれないんじゃないですかね。 負けず嫌いのね。」
羽生さんは、将棋等のゲームで娘さんに対しても容赦ないらしいからね。
極めて真っ当な羽生さんがそうなんだから、超一流は理性では推し量れない物を心の中にもっているのかもね。

そして、将棋ファンとして、嬉しかったのは、
棋聖獲得後の会見で記者から
「人間あるいは棋士の持つ可能性についてどう思いますか?」と問われて、
「数年前は、棋士とAIの対局が話題になりましたけど、今ではソフトとの対決の時代を超えて、共存という時代に入ったのかなと思います。今の時代においても、将棋界の盤上の物語というのは不変だと思いますし、その価値を自分自身が伝えられればと思っています。」

AIが棋士より強くなって、人間としてはなんだかなあと、興覚めするところはある。
それに対して、将棋界の盤上の物語は不変だと、明確なメッセージを放ってくれた。
これには、棋士たちも皆の気持ちを代弁してくれたと思ったんじゃないだろうか。
将棋ファンとしても嬉しかったね。
おまけに、自分が伝えたいというとてもポジティブなコメントまでしたんだから。
とても18歳とは思えないコメントだ。 羽生さんを上回るね。
記者も18歳に「人間あるいは棋士の持つ可能性についてどう思いますか?」と質問するんだからねえ。
普段から考えているのか、それとも少し考えれば出てくるコメントなのか、凄いな。

そして、その心の中に、小さいころ将棋に負ければとてつもなく泣きじゃくった負けず嫌いを持っている。
それがまた面白い。

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