王将リーグ出場8人の棋士のインタビューでの藤井コメントが面白い。

 「第70期王将戦挑戦者決定リーグ戦には、今期も将棋界のトップランナー7人が集結した。その挑戦を待ち受けるのは、最高峰タイトル・名人保持者、渡辺明だ。今年も8棋士の素顔に迫り、読者とともに”天才たちの感性”を体感していきたい。」という主旨のインタビュー記事が掲載されている。
棋士2人ペアへのインタビューという珍しい形。

今期のテーマは「ニューノーマル」。
1つ目は、研究・対局スタイルの変化。
2つ目は、藤井聡太のタイトル獲得だ。

 さて、俄然、藤井2冠に対する各棋士のコメントが面白い。
最近、インタビュアーも遠慮なく、聞きにくいことも質問するようになったな。

まず、藤井2冠本人のコメント。
・時間を使うことに躊躇されていないと思うのですが、ご本人的には何分差までは許容圏内なのでしょうか?
藤井 わからないまま指してしまうと、結局考えた意味がなくなってしまうと思っているんです。時間がなくなってくると多少そういうのも仕方ないんですけど、なるべく考えたところで自分なりに判断の根拠を持って指したいと思っています。

・藤井先生はソフトを使う時に心がけているところや、気をつけていることはありますか?
藤井 ソフトで研究すると評価値とかが出てくるわけですけど、そういった数字を見るだけではあまり意味がないので、評価値や読み筋とかから自分なりに考えています。評価値が+500点だとしたら、なぜそれが500点なのか、どういう要素から500ということを導き出しているのかということを考えています。数字自体はそこまで重要ではないと思うんですけど、そういうところを自分なりに考えるのは大事かなと思っています。

・「第一感」というものをどの程度、重要視されていますか? そのまま第一感が採用される確率というのはどのくらいなんでしょうか?
永瀬 羽生(善治)先生は、「第一感は7割が正しい」ということを書かれていたと思うんですけど、「そんなに正しいんですかね?」という話をした覚えがあります。藤井二冠が「自分の体感とは違う」というような話をされていた気がします。
藤井 平均すると3に近い気がします。確かに局面によってはなんとなく浮かぶ手というのもあるんですけど、なぜそうなるかという理由がわからない時はどうなのかな〜?と思いますね。
・理由がない手は選ばないということでしょうか?
藤井 自分なりのその手のメリットというのが明確化できれば指しやすいところがあります。

・藤井先生は研究熱心ですし、タイトル戦ともなればお互いに事前準備が深いと思われますし、相手の研究から少し外す手段も駆け引きや作戦として用いるのでしょうか?
藤井 基本的には悪手を指さなければ悪くなることはないと思っています。相手の研究通り進んで結果的に悪くなっても、それは研究にハマったというわけではなく自分の実力なのかなと思っています。

これらのコメントを読むと、まっこう本格派だなと思う。

わからないまま指してしまうと、結局考えた意味がなくなってしまうと思っているんです。なるべく考えたところで自分なりに判断の根拠を持って指したいと思っています。
誰でもこうありたいだろうけど、大概の棋士が妥協しているけど、対局を見てると、妥協が全くないね。
王道を強い意志で歩むというイメージだよ。

評価値が+500点だとしたら、なぜそれが500点なのか、どういう要素から500ということを導き出しているのかということを考えています。
これも凄い。 羽生さんがなぜ500点なのか、AIは説明してくれないから・・・のコメントをしていたが、藤井2冠はそこを徹底的に自分なりに解明しようとしているんだね。 鵜呑みにはしないぞと。

羽生さんの「第一感は7割が正しい」に対して、藤井二冠が「自分の体感とは違う」というのは、興味深い。
二人ともひらめきが凄いと思っていたけど、羽生さんの方がよりひらめき派なのか?、単に藤井2冠が自分のひらめきをAIで検証するようになったからか?後者かな? 羽生さんの全盛期にはAIがなかったし、「第一感は7割が正しい」というのもAIが強くなる前の記述だからねえ。

基本的には悪手を指さなければ悪くなることはないと思っています。相手の研究通り進んで結果的に悪くなっても、それは研究にハマったというわけではなく自分の実力なのかなと思っています。

これも凄いコメントだね。
大概の棋士が相手の研究に嵌ることを恐れているのに。 羽生さんも相手の研究にのるけど、それはこの機会に相手の研究を吸収しようとする意図を感じる。
藤井2冠の対局を見てると、相手の研究通りに進んでも、AIはずっと互角の数値を示している。
だから、最善手を指していれば、互角をずっと保てるんだというのを見てて感じる。
将棋と言うのは、そういうもんなんだなと。 最善手を指していれば、ずっと互角というゲームなんだと。
研究は、知っている方は早く指せるけど、知らない方は考えて指すから時間を消費するし、間違いやすい。
その二つのハンデを撥ね退けられるという覚悟と自信だね。 凄い。

さて、他の棋士の藤井2冠に対するコメントも面白かった。

(羽生9段)
・藤井先生はそのソフトが示してくれない「理由」の部分を徹底的に考えるとおっしゃっていました。
羽生 ああ~。そうなんですか! 早速、取り入れます(笑)。

これは、本気でやりそうだな。 今後が楽しみ。
羽生9段は、そこまでAIを使っていないと思うんで。
昨日、王将リーグで羽生さんが藤井2冠に初勝利をあげた。 いくつか凄い手を指したみたいだね。
いよいよ羽生さんが調子を上げてきた。 竜王戦に挑戦も決めたし。 豊島竜王に勝てるかどうか。
羽生さんの不調は足(かかと?)の怪我もあると思っているので、直ってきているようなので、まだ足をひきずっているけど、楽しみだね。

(佐藤天)
・マラソンでたとえると、今までもハイペースで走ってきているのに、その後ろからめちゃくちゃ速い人が走ってきたような感覚でしょうか。お二人はそのままのペースで走り続けるのか、それとも別の方法をとるのかというのをお聞きしたいです。
佐藤 同じように走るとすると壊れると思うんです。同じペースで走ろうとする人も数人はいるかもしれませんが、完全に同じことを目指すとすると、全てを変えないといけなくなる気がします。

これは、凄い例えだね。 同じように走るとすると壊れると思うんです、か。

(渡辺3冠)
渡辺 本来なら獲れるべく力があった人とかね。そういう人たちのほうが付き合っていかなきゃいけないわけだから、もっと考えるんじゃないですかね。消極的かもしれないけど「藤井くんとはキャリアが被らないから」というのを僕はよく言ってきたんですけど、それで何かを大きく変えるのかと言ったら、変わらないかもという感じになるのかなと思います。

もう張り合う気はないと言っているようなもんだね。

(豊島2冠)
・お互いにソフト勉強の限界を感じているという情報を拝見しました。豊島先生はソフト研究での序盤や中盤の感覚が煮詰まっている、さらに深く理解するために研究会を再開するのは有効かも、と。こちらも詳しく教えてください。
豊島 私が電王戦に出た頃とかはソフトがすごい勢いで強くなっていって、序盤の作戦とかもすごい変化が早かったのでそれについていくので精一杯だったんです。でも今はある程度作戦みたいなものが出揃ってきていて、一通りの局面は考えたことがあるというような感じになってきたので、それをさらにどうやって深めていくかという時期になったと思います。

これは、藤井2冠とは関係ないけど、AI研究も落ち着こうとしているのかな。

・最後の質問です。豊島先生は常々、全盛期の藤井二冠と渡り合えるように頑張りたいと言っていました。
豊島 番勝負で勝とうと思ったら普通の勝率のイメージが3割くらい最低でもないと難しいと思うので、運とかその時の調子とか、作戦がうまく当たるとか得意戦法が流行と重なるとかいろんな要素があると思います。それで多少は勝率を上げることはできても、それでも最低でも3割くらいないとキツイと思うので、それが一つの目安になりますかね。3割とか4割あれば、その時の状況によっては番勝負で勝てることもあるかなと思います。ただどれくらい差が開いていってしまうのかなとは思います。
自分の成長スピードを上げていかないと食らいついていけないというのはあると思います。でも、それとは別に30歳くらいで、自分よりちょっと年上で優秀だった人たちが急に調子が悪くなることがあるので、そういうこともケアしつつ成長スピードを上げていかないといけないから、すごく難しいなと思います。

豊島2冠は、藤井2冠に全勝してるけど、厳しく見てるなあ。
対戦勝率3割は確保したいと。 そうであれば、ラッキーな要素があれば番勝負でも勝てるチャンスがあると。
凄く、厳しく見てるね。

わりかし皆、奥底の本音はわからないけど、まあまあ正直に語っているようで、面白かった。
羽生さんは、相変わらず本音は語らないけど。

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