ベルギー王立美術館の所蔵作品より、16世紀のフランドル絵画から印象派、象徴主義を経て20世紀のシュルレアリスム絵画まで、およそ400年にわたるベルギー絵画の歴史を紹介する展覧会である。代表的な画家の作品を数点ずつ持ってきたという感じである。
さて、なんと言っても楽しみにしていたのは、ピーテル・ブリューゲル[父](?)の「イカロスの墜落」である。この作品は、近年になって、ブリューゲルの作品でない可能性が高くなっているらしいが、自分はこの作品がこの展覧会の数々の絵の中で一番良いと思った。色々な不自然さがあったとしてもだ。ブリューゲルの作品でないとしたら残念であるが、この作品の素晴らしさは変わらない。自分は、絵好きで結構絵を見ているが、ピーテル・ブリューゲルは世界一の画家ではないかと密かに思っている。ブリューゲルの絵には意味が込められている。絵に意味を持たせると、大概の絵が絵としてつまらなくなる。しかし、ブリューゲルの絵は、絵として見ただけでも素晴らしいのである。ブリューゲルは細部まで描きこむ。多くの人が描かれていることも多い。しかし絵から離れて全体を見ても素晴らしいのである。これは、一流の画家のみができることである。実は、ブリューゲルの絵は、生では1枚しか見たことがない。NYのメトロポリタン美術館で見た「穀物の収穫」である。麦畑の刈り入れの風景である。木陰で農民が一休みしており、黄金の麦畑が広がっている。麦畑の向こうには薄緑色の田園、また麦畑、そして海岸らしき風景がかすんで見える。図版で見ると、まず構図が素晴らしい。右手前に農民たち、ごちゃごちゃした部分は隅に置く、そして中央少し右に縦に横切る樹を配置する。樹の左に麦畑を描く。素晴らしいのは、黄金の麦畑を四つの大きな色の固まりとして描いていることである。これが近代的な効果を与えている。そして左中に緑色の田園、左奥に薄青の空がある。色の配置も素晴らしい。勿論主題は、麦の黄色である。その黄色を美しく見せるために、うまく緑色や薄青や茶色が配置されている。これを生で見るとどうなるか?麦の黄色が強烈で非常に美しかったのである。ゴッホの黄色に匹敵すると感じた。ブリューゲルの色は、印象派の色に負けていないレベルにあったのである。デッサン、構図、思想、これらは印象派を軽く凌駕するであろうから、押して知るべし。
さて、思想について。これを抜きにして、ブリューゲルは語れないであろう。しかし、絵における思想って何だろう。思想を語るに文章に勝るものはないであろう。絵が敵う筈がない。だが、絵は語らないだけに、考えさせる力がある。それの良い例が中野孝次の「ブリューゲルへの旅」であろう。中野孝次は、ブリューゲルの絵を見て、色々考え感じたことを語っていく。中野孝次は、自分の実感に基づいて語るから、空疎な一般的なことを排除しているから、読んでいて面白かった。この考えさせる力こそ、ブリューゲルの絵の力であろう。
さて、この展覧会であるが、ルーベンス、ヴァン・ダイクと大物の絵もあったが、アンソール、ポール・デルヴォー、ルネ・マグリットの現代画家の作品に期待していた。しかし、絵としてイマイチであった。ちょっと変わった絵を発明したというところであろう。まあ、アンソールはちょっと味わいがあった。
写真はブラーケレールの「窓辺の男」