法隆寺金堂展  奈良国立博物館  08/06/22

 奈良国立博物館に法隆寺金堂展を見に行った。楽しみにしていた展覧会であった。2000年に東京国立博物館で日本国宝展を見た。展示品がすべて国宝という豪華な展覧会であったが、感動する作品は少なかった。その中で、印象に残ったのが、狩野長信の「花下遊楽図屏風」と法隆寺金堂壁画の模写であった。金堂壁画は、見た瞬間、衝撃を受け素晴らしいと思った。模写でこれほど素晴らしいのだから、焼け落ちる前の原画は、どれほど素晴らしかったのだろうと考えていると、近くにいた爺さんが、「わしは、中学生の頃、この原画を見たことがある」と言うのが聞こえ、思わず振り返ったことがある。今回は、全12幅が見れるのだ。
 部屋に入ると、まず焼けるのをまぬがれた飛天図だ。さすがに色落ちが激しいので、思いをはせるしかしょうがない。そしていよいよ壁画の模写である。解説を見ると、戦前のコロタイプ版写真を紙に焼付け、それに原色版写真を参考に着色したというものだそうだ。なるほどと思った。いわば、当時の代表的日本画家達が塗り絵をしたということである。これは、正解であった。まさか、精鋭の日本画家達が塗り絵をしたとは思っていなかった。だから、模写といっても画家の個性が現われているだろうなと思っていたが、それはないのだ。原画の忠実な再現になっているのだろうと思う。そして、それは、戦前の写真の時点での経年劣化が激しい状態の再現であり、リアルであった。そして、もうひとつ印象に残った解説は、インド・アジャンター石窟群の壁画、敦煌莫高窟の壁画などとともに、アジアの古代仏教絵画を代表する作品であったという解説である。それほど、世界的に評価が高いとは知らなかった。日本人は、法隆寺への思い入れが強いのでと思っていたのだが、そうではなかった。
 さて、まず3号壁の観音菩薩立像、平山郁夫筆である。優美な身体つきをしている。服を透かして、身体が見える描き方をしている。これは、ほぼ全12幅に共通な描き方だ。一体どういう思想から来ているのだろう。仏たちの身体の線を見せてもしょうがないような気がするのだが。画家の美意識がそうさせているのか?よくわからない。この優美な上半身から腰にかけての身体の線と手付きは、平安時代の優品群へと繋がっている様な気がする。この絵で惹かれるのは、顔であろう。どうしてこうも仏の顔は、気色の悪い顔をしているのだろう。不思議でならない。しかし、ここに日本の仏の顔の原点があるのだろうと思う。また、顔については、触れたいと思う。
 2号壁の菩薩半跏像、これも優美な身体つきの仏である。
 1号壁の釈迦浄土図、これが素晴らしい。釈迦三尊を中心に、その左右に十大弟子が侍立する。仏の顔がつまらない分、弟子達の個性的な顔が面白い。信念の強そうな顔、賢そうな顔、白い顔はよくわかるのだが、黒い顔は、劣化で表情がよく見えない。黒い顔は、インド人の顔を表していて、リアリズムだ。けれども、顔は黒いが、インド人の顔とも思えないところが面白い。
12号壁の十一面観音立像、女性かと思えるきれいな顔立ちをしている。それなのに、力強い足指をしているのが面白い。
11号壁の普賢菩薩坐像、これも優美な身体つきと斜めからのお顔が印象的な仏である。
10号壁の薬師浄土図、神将4体のあくの強い顔がとても面白い。仏以外の顔が画家の腕の見せ所と言わんばかりで、以後日本の仏画の伝統になっているような気がする。
 反対側の壁に行くと、9号壁の弥勒浄土図、色落ちが激しくて、よくわからない。
8号壁の文殊菩薩坐像、特徴のあるお顔をしている。
7号壁の観音菩薩立像、これも色落ちが激しくて、よくわからない。
6号壁の阿弥陀浄土図、阿弥陀は、黒い顔でインド人、両脇の観音、勢至菩薩の顔が実に印象的で一度見たら忘れられない顔だ。教科書とかでよく見かける顔である。不機嫌そうなおばさんの顔みたいだ。虚心坦懐に見ると、そう見えてしまう。改めて、仏達の顔を見ていると、全ての菩薩達の顔が女性的に見えるのだ。もしかしたら、菩薩とは、男性とも女性とも決められない存在として考えられていたのかも知れない。だから摩訶不思議な顔をしているのかも知れない。日本国宝展で感動したのは、この絵だったが、今回感動したのは、別の絵だった。
 5号壁の菩薩半跏像、この絵が凄かった。壁の変色やひび割れ、色のかすれや色ダレが執拗なまでの細密さで描かれているのだ。まさに壁画であると感じとれるような絵だった。これを見た瞬間、模写した画家達の執念に圧倒された。模写といえども、それを描いた画家の心意気が如実に現われるのだ。日本最古で最高の絵に対する画家の思いに、心囚われずにいられなかった。
 4号壁の勢至菩薩立像、特に言うことなし。
 法隆寺金堂壁画には、色々な仏さん達が描かれている。飛鳥の昔にすでに阿弥陀さんや十一面観音が描かれているのに驚いた。だから、日本の仏教絵画の源がここにあるのだろうと思う。一体、どういう画家がこれを描いたのだろう。中国や朝鮮から来た人かも知れない。かえすがえすも、原画が焼け落ちたのが、残念だ。もっと鮮明な状態で見られたなら、その凄さをもっと感じとれるだろうに。
 四天王立像の広目天像と多聞天像、すっくと立っているだけなので、その素朴さが目に付くが、存在感がある。
 毘沙門天と吉祥天像も素晴らしいが、平安時代の作である。
 本展は中身は素晴らしかったが、作品数からいったら少なくて、少し物足りなく感じていたが、「建築を表現する」と常設点もやっていて、つまらないだろうと思っていたら、案に相違して、国宝が5点くらいあって、びっくりした。これが、奈良博の底力かも知れない。「信貴山縁起絵巻」「六道絵」「一遍聖絵」が見れたのは、良かった。
写真は、「5号壁の菩薩半跏像」。

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