ハリルホジッチ監督のことは、日本代表監督になる前から評価していて、待望していた。
河治良幸というサッカージャーナリストの書いた記事を読んでからだが。
期待通りの監督ぶりだ。 いや、今の所、期待以上かもしれない。
特に、今回のUAE戦の采配に、ハリルホジッチ監督の凄さが現れていた。
まずは、GK川島永嗣の起用だ。
これは、本田の先発起用どころの話じゃない。
川島は、数年試合にほとんど出ていない。
前回、招集された時は、第3GKとして試合に出れる可能性はないが、精神的支柱として頑張ってくれと言われている。 今回もそうだと、てっきり思っていた。
しかし、ハリルホジッチ監督は、今回のUAE戦は、ベテランの経験が必要、川島の練習ぶりから使えるとの判断から西川でなく川島を起用した。
冷静に川島と西川を比較すると、
川島:海外経験、大試合の経験が豊富。 シュートに対する反応がいい。 試合に出ていない。
西川:キックの精度が高い。 後ろでボールが回せる。 カウンターの起点になれる。 試合に出てる。
こう見ると、西川は攻撃力に優れていて、他は平均点という感じだろうか。
今回のUAE戦は攻撃力は重視されない、ということから、川島が使える状態であるなら、使いたいという判断も正しいと言える。 (UAEはホームでしかも勝たないといけない状況だったから、攻めてくる。)
この理屈から言えば、タイ戦は、西川が出てくると思う。
さて、ハリルホジッチの凄いのは、この自分の判断を信じて実行したことだ。
「試合に出ていない選手は使わない」というメッセージを放った以上、「言行齟齬」と取られて、結果が悪ければ、非難囂々だ。
しかし、周囲の意見を気にして、自分の判断と違うことをしたら、それこそダメだろう。
「試合に出ていない選手は使わない」というのは、基本方針であって、ルールではない。
勝つためには、基本方針に反するのが必要なら、やるべきだろう。
評論家は、基本方針を取り上げて、本田を使うなで一色に染まっているが、バカとしか言いようがない。
試合に出ていないデメリットの方が大きいから使わないのであって、メリットの方が大きいという判断なら、使うべきだろう。 その判断は難しいと思うが。
ハリルホジッチには、練習の様子で判断できる眼があるということだろう。
「トレーニングをする中で(出来るという)確信が持てました。すでに申し上げましたが、本当に経験値が必要な試合だった。メンタル的に落ち着いた選手が必要で、今野と同様にパーフェクトにこなしてくれた」というコメントがすべてを語っている。
そして、「今まで代表で経験してきたことをピッチの上で出してくれ」という川島への声掛けも素晴らしい。
プレッシャーを与えず、しかし、激を飛ばしていて、かつお前のプレーをしてくれればいい、と言っているんだから。
本当に判断が柔軟で、信念に満ちた采配だと思う。
「試合に出ていない選手は使わない」が信念ではなくて、勝つための采配をする、という信念だ。
もう一つは、今野をインナーにした4-3-3システムの採用だ。
「今野は素晴らしい試合をした。ここ3試合、G大阪でどんなプレーをしているか追跡して、そこでアイデアが浮かんだ。(今野を前に置いたのは)タクティクスだ。なぜそうしたか、私は把握している」とコメントしている。
なぜそうしたか、語ってくれよ、と思うんだが。
まあ、ガンバの長谷川監督の采配を借用した、ということ。
長谷川監督に借りができたな。
もっとも、ガンバには、藤春と米倉を代表に呼んで貰って、一段成長させてもらったという恩があるから、フィフティ・フィフティか。
ハリルホジッチは、いいものは貪欲に取り入れる。
一つの物にこだわらない。
前回のWCでは、評論家もファンも4-2-3-1に拘っていた。
3-4-3も試したかったザッケローニ監督を封じ込めてしまった。
それが、敗因の一つだと思っている。
ハリルホジッチは、いつの間にか、なんなく複数のシステムを使える状態に持って行っている。
その柔軟性が素晴らしい。
それにしても、オシム監督といい、ボスニア・ヘルツェゴビナという国は、いい監督を生む。
自分は、ボスニア・ヘルツェゴビナの内戦で、止めようとして銃で撃たれたという彼の逸話が好きだ。
この逸話が彼の信頼すべき人間性を語っていると思う。
(訂正:デマをつかまされたみたいだ。真実は内戦時自衛のために持っていた銃の暴発による負傷のようだ(こちら))。
それに毎日でも仕事をしていたい、という情熱とワーカホリックぶりも。
彼が、どんな采配を揮うのか、どこまで日本代表を強くしてくれるか、わくわくするよ。