車で鹿を轢くかと思った。

 昨日、奈良の学能堂山に登った。 その帰り道。
6時前くらいだったろうか、もうすっかり暗くなっていた。
山に囲まれた奈良南部は、闇に包まれたようになる。
怖いので、さすがに車のスピードを落としめにする。

 突然、前方の道路の脇に鹿が現れた。
立派な角の生えた大きな鹿である。
相当でかかった。
慌ててブレーキを踏んだ。
かなり近づいて、やっと鹿はこちらを見た。
普通の鹿なら、慌てて藪の中に引返す。
しかし、その鹿はこちらを悠然と見た。
目がライトの光を反射して、ぎらっと光った。
まるで宮崎駿の「もののけ姫」の「ししがみ」のように堂々としていた。
そして、道路の一歩手前で、歩みを止めた。
自分は、その鹿の前をゆっくりと通り過ぎた。
あんな堂々とした鹿を見たのは、初めてだ。
もし鹿を轢いていたら、あの大きさからして、こちらの車も前面大破、その後、車を制御できたかわからない。
危ない所だった。

 この実に堂々とした鹿で、もう一頭の鹿を思い出した。
かなり昔、北海道の知床に旅行で行った。
まだ山登りを始める前の頃だ。
秘境・羅臼湖を見に行った(知床五湖ではない)。
近くに駐車場はない。
当時、自然保護のためか、人を近づけたくなかったようだ。
かろうじてあった道路脇のスペースに車を停めた。
道路から羅臼湖への標識もとても目立たないような物だった記憶がある。

 不安に感じながら、薮道に入っていった。
二の沼、三の沼と見て、さらにさの先に羅臼湖があるのだが、これ以上進むと、帰りには暗くなりそうだった。
熊も怖いので、引返すことにした。
そして背丈ほどの薮の中の道を歩いていると、突然、ガサガサっと音がした。
熊かと思って、振り向くと、すぐそこに大きな角のエゾシカが顔を出し、こちらに気づいたのだろう、こちらをじっと見た。
何だろう。 自分は動物は怖くない。
動物好きだからかな。
しかし、勿論警戒はする。
この時、逃げようとは思わなかった。

 しばらく、見合った後、写真を撮りたくなり、カメラをポケットから取り出そうとすると、その気配を感じたのだろう、
エゾシカは、私に向かって、ケンと鋭い声で鳴くと、藪の中に引っ込んだ。
あれは、本当に威嚇するような、野生の声であった。
こちらが、怖くなるほどだった。
その後の帰り道、かなり後まで、ケンと鳴く警戒の声が、続いていた。
私は、急き立てられているようだった。

自分の中で、野生の動物との3本の指に入る思い出である。
一番は、また別の機会に。

羅臼湖・二の沼 100 (640x480)
羅臼湖・二の沼。
鹿と出会ったのは、雰囲気的には、向こうの山の潅木の中を歩いている感じ。
羅臼湖・三の沼 096 (640x480)
羅臼湖・三の沼。
羅臼湖・二の沼 095 (640x480)
二の沼の向こうに見えるのは、羅臼岳。
エゾシカ・羅臼岳からHへ 044b (640x480)
これは、次の日に、夜道で撮ったメスのエゾシカの写真。
こんなんじゃ、ないよ。
あの鹿は、道にでてくるような、軟弱な鹿ではない。
ヒグマと同じ場所に生きていると、感じさせる鹿だった。

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