夜桜 春地温
炎舞
速水御舟~日本画への挑戦~を見にわざわざ山種美術館に行った(09/11/21)。速水御舟がすごい画家かもしれないということで、その全貌を知りたかった。山種美術館は、かなりの御舟の作品をもっているようで、移転後に最初に開く展覧会だから、回顧展なみになるのかもという期待があった。
新しい山種美術館は、恵比寿から歩いて10分ほどの所にある。駅から離れて住宅街との境というような雰囲気だ。以前の九段下近くにあった時と場所の雰囲気は似ている。移転して、大きくなっているのかと期待していたら、広さは以前と同じくこじんまりしていて、がっかりした。個人の美術館ではこんなものかもしれない。但し、内装のデザインは、階段横の琳派風の壁面といい、廊下突き当たりの赤い照明といい、おしゃれになっていた。
最初に「錦木」、若い頃の絵なのに、気品があるのに驚く。風景画があって、そして「炎舞」、赤い炎のあり様を丹念にたどって見ていく。近くで見ると、蛾の舞うあたりの炎塵が幻想的に美しく、吸い込まれるようだ。暗闇に浮かぶ炎が美しい。しかし、妖しさや業みたいな物までは表現されていないようだ。「翠苔緑芝」、この琳派風の絵はどうだろう。琳派は、構図が命だ。そして単純化しなければならない。この絵の構図が特にいいとは思えない。近くで見ると、アジサイの花がすごく美しい。写実的すぎるのだ。芝だけシンプルにすればいいというものではないと思う。「馬(写生画巻)」、馬を色々な角度から見たデッサンなのだが、うまいものだ。「夜桜」、近くで見ると、葉脈の描き方など、あまりにも繊細で美しい。離れると、ぴんと立つ葉が生きているように感じられた。「名樹散椿」、前もここで見た。離れて全体を見たいのだが、狭いのと人がいるので、じっくり味わえなかった。「婦女群像(未完)」、あまりいいとは思えない。群像にする意味があるのだろうか?唯、色々な姿勢の婦女を描いているだけで、意味がない。その横に「婦女群像習作(ひざまづく)」が、あった。純朴な顔の女性が、紫の淡彩の着物で、膝をついて反物を持っている。写実を離れて画家の感性のみで塗られた淡彩がとても美しい。この絵は欲しいなあと思った。純粋に感性だけで楽しむことができる絵である。
さて、丹念に見た後、もう一度ざっと絵をみて見た。そして、「炎舞」以外は期待ほどではなかったというのが正直な実感であった。近づいて、絵の細部を見ると、その超絶技巧に酔いしれる。しかし離れて見ると、それほどでもなくなってしまう。絵を描きこむことに夢中になって、離れて見るとどうなるかをあまり計算していないのかもしれない。勿論全部がそういうわけではないのだが。