一昨日、NHKスペシャル「終わらない人 宮崎駿」をやってた。
長編映画はもう作らないと宣言して引退した宮崎駿監督への2年間の密着取材番組。
「俺はリタイアじじいだ」と言いながら、なんやかややってる。
俺はリタイアおっさんだな。 遊んでるだけの。
宮崎駿監督は、知り合ったCGアニメーターの若者達と「毛虫のボロ」という短編映画を作っていた。
リタイアしたと言いながら、相変わらず物凄く苦悶しながら絵を描いていた。
ちょっと面白かったのは、ボロが卵から顔を出す場面。
割れた卵からボロの毛が少しはみ出る。
CGは計算して、実物の動き通りを描き出す。
しかし、宮崎監督は言う。
「毛が小さいから、わからない。もっと大きく描いて、目立つようにしないと。」と。
そうなんだよな。
正確だとダメなんだ。 人は心でも見るから、心に訴えるには、強調しないとダメな場合があるんだよなあ。
CGの弱点を芸術家が見抜いたという感じだったなあ。
宮崎監督は、最初の場面、ボロが卵から顔を出して、初めて世界を見る場面が納得いかず、苦悩している。
苦悩した末、周りに生き物の気配が全然ないからダメなんだと言い出す。
そして、そこからの想像力が凄い。
ボロの周りを、「夜の魚」という摩訶不思議な生き物の群れが泳ぐ絵が出来上がってきた。
凄いなあ。 それがいいのかどうかわからないけど、宮崎監督らしい動きのある、魅力的な絵になってたなあ。
一番印象的だったのは、ドワンゴ会長の川上量生氏が、自社のCG技術を説明に訪れた場面。
人体が頭を足のように使って移動するグロテスクな動きを見せて、ゾンビゲームに使えるんじゃないかと言っていた。
宮崎監督が憮然とした顔で、身体障害の友人がいるんですよ。 ハイタッチするだけでも大変なんです。彼の筋肉がこわばっている手と、僕の手でハイタッチするの。
その彼のことを思い出して、僕はこれを面白いと思って見ることできないですよ。
これを作る人たちは痛みとかそういうものについて、何も考えないでやっているでしょう。極めて不愉快ですよね。そんなに気持ち悪いものをやりたいなら、勝手にやっていればいいだけで、僕はこれを自分たちの仕事とつなげたいとは全然思いません。
これには、ドキッとした。
宮崎駿は、こういうことをはっきりと厳しく言える男なんだよなあ。
そういうことが根底に流れているから、彼のアニメが世界中で愛されてるんだろう。
宮崎監督がたった一つの場面を、何回も労を惜しまず、細かく描き直す場面を見てると、頭が下がる。
絵を描くことを、めんどくさいとはこれっぽっちも思ってないんだろうなあ。
CGは、めんどくさい作業をコンピューターにやらせようという発想だから、正反対だ
よ。
そして、宮崎監督は長編映画を作る決意をプロデューサーの鈴木 敏夫に語る。
作成途中に死んだら、周りに迷惑をかけるから、引退したんだけど、死ねないと思いながら死んだ方がましだと言っていた。
鈴木 敏夫も、途中でみやさんが死んだら、映画は大ヒットですよ、と返してた。
死んでも中身はどうでもヒットでお金は大丈夫だから、やりないさいよ、ということだろうね。
企画書を書いていたみたいだから、これは作るんじゃないかな。
気概はしっかりしてるから、白鳥の歌を歌ってくれそう。