「甲斐荘楠音の全貌」 ~妖しさの絵~ *京都国立近代美術館

 京都国立近代美術館で「甲斐荘楠音の全貌」―絵画、演劇、映画を越境する個性 を先月の話になるけど、見てきた。

 大正から昭和にかけて京都で活躍した日本画家、甲斐荘楠音(1894-1978)。国画創作協会で彼が発表した作品は美醜を併せ吞んだ人間の生を描いて注目を集めましたが、やがて映画界へ転身し、風俗考証等で活躍したこともあってその画業が充分には顧みられない時期が続いていました。今回は、彼が手がけた時代劇衣裳が太秦で近年再発見されたことを受け、映画人・演劇人としての側面を含めた彼の全体像をご覧いただきます、とのこと。」

昔、怪奇小説で何かの賞を受賞していた「ぼっけえきょうてえ」の表紙におどろおどろしい女性の絵が用いられていた。 それが、甲斐荘楠音の「横櫛」だった。 その絵を憶えていて、見てみようかと。 自分の中では、岡本神草とセットになっていて、2017年の岡本神草展が良かったのも、見る動機になった。

・「横櫛」

 
妖しさが出ているいい絵だね。 ただ、岡本神草みたいにこれ以上掘り下げていくことはなかったみたいだ。

・「毛抜き」

この絵に凄く魅かれた。
この若い頃の絵に、甲斐荘楠音の資質が全て現れていると思った。
何とも言えな妖しさを醸し出している。
どうも同性愛者だったみたいだね。
背景のケシの花が妖しさを引き立てている。 傑作だなあ。 この絵が本展でベストだった。

後に、溝口健二と知り合ったことで映画界に転身し、『雨月物語』がヴェネツィア国際映画祭銀獅子賞を受賞、自身はアカデミー衣装デザイン賞にノミネートされたそうだ。 これだけの絵が描ければ、その美的センスで何でも出来るだろう。 また、溝口が死去したのをきっかけに映画界を去ったそうだ。
旗本退屈男の衣装が会場にずらっと並べられていた。 特に魅かれなかったけど。

そして、晩年に、『虹のかけ橋(七妍)』と「畜生塚」という2つの大作を描き続けた。
『虹のかけ橋(七妍)』は、7人の花魁の姿を描いた大作。 確かに華やかなのだが、こちらに来るものはなかったな。
「畜生塚」。 こちらが問題作だろう。 畜生塚とは、京都市中京区石屋町の瑞泉寺境内にある塚のことであり、豊臣秀吉によって切腹に追い込まれた秀次の愛妾たちの処刑直前の様子を描いている。
この悲惨な極限状態の女性たちを描き切れたのなら、代表作になっていただろうなあ。
なんか、ダ・ヴィンチやミケランジェロのモノマネのような印象を抱いた。 彼の資質にそぐわない描き方なのだ。
だから、悶え苦しむ姿が描かれながらも、何の感動も抱けなかった。

この2つの大作が、彼が最後に心血を注いで描いた作ということだから、一流の画家とは言えないかな。
若い頃に描いた妖しい絵が、彼の資質が現われた素晴らしい絵で、そこから深化することは残念ながらなかった、ということかな。

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