国立国際美術館で「クラーナハ展─ 500 年後の誘惑」を見てきた。
ドイツ・ルネサンスを代表する画家、ルカス・クラーナハ( 父、1472 -1553 年)の日本での初めての展覧会。
世界中から集められた作品およそ100 点で構成される、史上最大規模のクラーナハ展。
特に、ウィーン美術史美術館から名作9点が来ていた。
さすがに、ウィーン美術史美術館からの作品が素晴らしかった。
特異な絵を描く画家だけに、見応えがあった。 オススメ。
★「聖母子」と「聖母子と幼き洗礼者聖ヨハネ」が並んでいた。
前者は43歳頃、後者は、65歳頃の作品。
前者にはイタリア・ルネッサンス的な美しさがある。
金髪に青い服に青い空、明快な色の配置がルネッサンス的なのだ。
ところが、後者になると、黒のバックに聖母が妖しげな表情で首を傾げている。
まさに、クラーナハの絵になっている。
両方とも美しい絵なだけに、その対比が面白かった。
★「夫婦の肖像(シュライニッツの夫婦?)」
市井の人の肖像なだけに、余計なものがない。 それだけに良さがぐっとくる。
夫はまさにドイツ人の顔をしている。
妻は、何とも言えない含みのある表情で、灰色のドレスがまた絶品である。
そして、バックは黒。 黒のバックは作品に深みを与える。
★「ヴィーナス」
透けた布だけを持った裸体の女性・ヴィーナスを描いている。
案外、小さな絵なのに驚いた。
テレビで見たその存在感から、もっと大きな絵だと思っていたのに。
多分、ヌードだから大っぴらに飾れないので、大きな絵にできなかったのだろう。
もう、クラーナハ全開の絵だ。
妖し気な表情、小さな胸、少しくねらせた体、黒のバック。
神秘的で怪しげなエロティシズムが溢れている。
目つきが特に妖しい。 こんなドイツ人はいないだろう。
クラーナハの好みなのかな。
★「ルクレティア」 ウィーン造形芸術アカデミー
こちらも、「ヴィーナス」の絵に似ている。
黒のバックに、裸体の女性の立ち姿。
レイプされ自殺しようと胸に剣を当てている。
しかし、優雅な立ち姿で、とても悲劇的な感じがしない。
★「ルクレティア」 個人蔵
こちらのルクレティアは荒廃した表情をしていて、テーマらしい絵である。
★「正義の寓意(ユスティティア)」
少年のような凛々しさを感じる女性のヌード。
いいね。
★「女性の肖像」
帽子の花飾りやドレスのビーズの精緻さは、抜群。
クラーナハの技量の高さに感心する。
★「ホロフェルネスの首を持つユディト」
この絵が、本展のベスト。
敵将ホロフェルネスのふところに潜り込み、彼を油断させることで惨殺したユディトを描いている。
何とも言えない冷徹で、妖し気な表情をしている。
それでいて、気品を感じてしまう。
精緻な絵のおかげか。 黒のバックが効いている。
★「マルティン・ルター」ブリストル市立美術館
クラーナハと宗教改革で有名なマルティン・ルターは、親友だった。
この絵は、世界史の教科書にも出てくる有名な絵だ。
ちょっと疲れた顔で、遠くを見ている。
日常の一瞬を切り取ったのかも。
クラーナハの優れた肖像画のバックは、黒か水色だ。
黒の場合、気品や妖し気な感じを醸し出し、水色だと、明快な感じかな。
この絵だけ、バックは萌黄色だ。
ルターだけは、特別な存在だったからだろうか。